『シン・ウルトラマン』が映像がとにかくかっこいい

 『シン・ウルトラマン』について書きたいと思うんである。オタクが自己紹介をする時に、好きなものを語る。何故か。人間は好きなものを通して性格を理解することができるし、あるいは趣味が合わなすぎる人間と理解することはできないからである。

 で、俺という人間をよく見せようと思ったら、良い面ばかりを書いた方がいい。人間はネガティブな人間より、ポジティブな人間の方に好意を抱くからである。年がら年中、愚痴ばかり言っている人間を好きになるだろうか。ならない。

 ならないが、良いことばかり書くのは不可能なので、書くんである。正直に、素直に書くと、そうなる。これはもう致し方ない。ポジティブな人間じゃないからである。陰気な人間が楽しいことばかり口にして、明るくする姿は、逆に不気味である。不気味であるよりは、誠実でありたい。

プロレスがかっこいい

 俺が思うに、『シン・ウルトラマン』最大の魅力はこれである。プロレスがかっこいい。特に序盤のドリル怪獣とウルトラマンが格闘するシーンが最高にかっこいい。だいたい考えてみて欲しいが、人類が人類以外と格闘することはまずないんである。

 人間は犬や猫と戦わない。体格が違いすぎて戦いにならないというのもあるし、動物愛護の精神もあるから、取っ組み合うということがない。人間大の生き物としてゴリラやクマというのもあるが、やはり戦わないんである。どう考えても死んでしまう。

 猫や犬を相手にしても人間が勝つことはほぼ不可能なのだが、ゴリラやクマと取っ組み合ったら一撃でふっ飛ばされて終わりになってしまう。野生動物はめちゃくちゃ強いのだ、という単純な話ではなくて。人類も長距離走ではほとんどの動物に勝利できるらしい。訓練すると42.195kmも走れるのは尋常ではなく、人類はかなり逃げることに特化した生き物であるらしい。

 余談はともかく、つまり、人間が人間以外と取っ組み合うというのは、物珍しく、面白い。それも四足歩行で、ドリルがついていて、突進してくるのである。ボリショイ・サーカスでクマが一輪車に乗ったりするのを見て、拍手喝采したくなる。ああいうものに近い。すごい、人間がドリルと戦っている。ここに原初的な面白さがある。

 はっきり言って、『シン・ウルトラマン』はこれが全てだと言って過言でないと思うんである。あのシーンだけ何回でも見られる。俺は好きなアニメやドラマを、同じシーンだけ何百回も再生する癖がある。

詰め込みすぎ

 おそらく、『シン・ウルトラマン』は禍特対というチーム全員を主役とした、『パトレイバー』のような作品を作りたかったんではないかと思うんである。『パトレイバー』というのは人型巨大ロボットが開発された世界で、軍事利用だけでなく道路工事や海岸整備など様々な用途にロボットがいる。車を取り締まるようにして、ロボットも取り締まる警察官の話なのだが。

 夫婦喧嘩で暴れるのにロボットを使ったり、うっかり飲酒運転しちゃったり、地上げ屋がロボットを使うのを止めに行ったり、と笑い話のようなエピソードが中心にある。その合間、合間にロボットを使ったテロや怪獣と戦う、というシリアスな展開も挟まる。日常パートを巧みに盛り込んだ、シリアスコメディである。

 『シン・ウルトラマン』も構成としては何故か日本にばかり押し寄せる巨大怪獣と戦いながらも、一般国民や政治家のお偉いさんからどやされ、家にも帰れず、グダグダとした日常を過ごす。その合間にふと究極超人が紛れ込んでしまい、物語が風雲急を告げるというようなストーリーが主軸だったんだろう。

 こうした作品をいきなり映画にして、2時間で4つもエピソード化する、というのはかなり厳しいものがある。映画というのは見る人の気持ちを動かすもの、登場人物の感情の変化を見せるものだ、とよく言われる。2時間で認識して、理解できる感情にも上限があるわけで、4つもエピソードがあるとついていけなくなるからである。

 例えば、30分アニメ4本だったら区切りがある。最近は一気見などもできるが、OPやEDがあり、疲れたら休憩もでき、一個一個のエピソードにおける感情を受け止めるだけの余裕を作ることができる。しかし、劇場の2時間で4エピソードというのは怒涛のように過ぎていくから、あれよあれよという間に過ぎ去っていって、納得する前に映画が終わっているのである。

 しかも、全てのエピソードが珠玉のように輝いていて、どのパーツも捨てられないような繊細な構成、というわけでもない。個々のエピソードはあまりつながっておらず、ザラブ星人のパートを雑に切っても、ゾーフィの下りをまるっとカットしても、それはそれで成り立ってしまう。

 どう考えても、ニセウルトラマン対決の映像を作りたかったんだろうな、とか、工場の真上で戦うシーンを撮りたかったんだろうな、とか。とにかく映像が先行してエピソードを決めたように思える。何故そう思うかというと、その映像は確かに面白かったからである。このパート絶対にいらないけど、このプロレスは面白いよね、というのが各所に現れる。

 俺としては禍特対の、怪獣が不意に現れるせいで休みも取れないし、家にも帰れないし、見たいアニメも見逃す。偉い人は適当な指示を出してくるし、うっかり食堂に行くと陰口を叩かれていて、それでも怪獣と戦う奇妙な仲間たちのグダグダ日常ものが見たい。

 これはもう『シン・ウルトラマン』を見た人だったら、誰もが思ったことだろうと思う。令和の『パトレイバー』的な作品として、ぜひ映像化をして欲しい。そうしてくれたら、『シン・ウルトラマン』は総集編劇場版だったという解釈で納得するんである。

映像や動きが面白い

 総決算のような話であるが。細かい部分の動きがとにかく面白い。ビーム撃つ時のちょっとしたタメ方、ビシッとしたポーズの決め方。あるいは、ブラックホールに吸い込まれんとする時の、コマのような、水洗便所のような、くるくるとしたウルトラマンの動き。ザラブ星人と戦う際の変な飛び方。

 CG全盛期の今、あえて、あの動きである。自然に、リアルに、それっぽく見せるのじゃなく、ひっかかりを覚えさせる、変な動きが最高に面白い。要所要所では懐かしい音、変な効果音、BGMなども不意をついて流される。全編通して変な動きが一貫して用いられており、それは在りし日の『ウルトラマン』再現だったり、実物を使った特撮の工夫のパロディだったりするんだろうが。

 俺は過去のウルトラマンをほとんど何も知らないし、見てもいない。映像の素人なので、すごいかどうかもわからん。わからんけれど、ただ、好きである。映像全体が癖になるテンポでできており、なんだか知らんけど、もう一度見たくなる。

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