新橋の居酒屋「サケトメシト」に行ってきたんである。念のために書くが、行ってきたのはずいぶん前である。これは予約投稿をしているのであって、コロナがちょっと落ち着いてきた時期を見計らったものである。
事前の知識、というか、イメージでは膨大な酒がいっぱい置いてある。貴重な酒をいただくことのできる、バーにちょっとご飯が出る、という想像をしていた。今思うと、その膨大な酒の量と知識を知っているが故に、その印象によって店も見ていたからなんだろう。
やっと店が開店してから一年が経ち、ようやっとコロナも落ち着いて、足を運んでみると。違った。良い意味で、俺の想像とは違った居酒屋だった。何よりも飯がうまい。飯がめちゃくちゃにうまいのである。
これは良い誤算である。言い方は大変失礼だが、コロナ禍で俺が知ったのは、「自宅でもうまい酒は飲める」ということだった。金さえ払えば、地球の裏側からでも酒を頼むことができる。貴重な酒もアンテナを張っていれば、手に入れる算段はつく。
ただし、飯はつかない。俺も酒好きの一人として自分の飯を作ることはできるが。まず、腕がない。俺の料理は母親からの見様見真似で、きんぴらごぼうだの筑前煮だのといって家庭料理が中心である。YouTubeの動画なんかでレシピを仕入れることもあるが、結局のところ、腕がない。
料理というのは誰がやっても八割五分くらいまでは近づける。今日の夕飯も美味しかったね、というくらいには何をどうやってもなるわけだが。その先の絶品レベルにはなかなか届かない。誰でも逆上がりくらいはできるものだが、新体操の鉄棒まではできないのと同じだ。
うまい飯というのはうまい酒よりも貴重なんである。故に、うまい飯を出す居酒屋はありがたいし、もう一度行きたくなる。ただし、店のメイン酒が蒸留酒であるらしく、それに合わせた料理はいささか塩味と油がきつい。そこは気分と体調を合わせた方が吉である。
今回いただいたのがこちら。まずは「鶏肉のしょうがマリネ」。くたくたに煮込まれ、繊維状になった鶏肉をマリネ液としょうがで漬け込んだ一品。マリネの味わいが絶妙で、酸っぱすぎず、塩味もきつすぎず、絶妙である。マリネはうっかりすると漬けすぎて味がきつくなりがちだが、その加減もいいのである。
俺はこちらをりんごの蒸留酒カルヴァドスといただいたのだが、この組み合わせも最高である。暑い中を歩き回ってきた疲れ、失われた水分と汗が、しょうがによって癒やされ、そこにりんごの香りが心を掻き立てる。もっと食えるぞ、という次の酒と飯への期待感を盛り上げる、完璧な前菜と酒なんである。
料理人が釣ってきたというワカサギのフリット。こちらも最高。身がふっくらとして柔らかく、食べごたえはしっかりある。衣もサクサク感はありながらも、ガリガリの硬さではない。その衣にかなり濃い味がついており、ご飯のおかずではなく、完全に酒のあての仕様なんである。
ちょうどこの日にはマルール12というビールがタップでつながっており。濃いめ甘めでアルコール度数も12%というパンチの効いたビールと、塩味の濃いフリットは完璧な組み合わせである。
〆はtwitterで見てから食べたくて仕方のなかった、冷製パスタ。俺は冷製パスタが大好きなんである。一人暮らしをしていた時はまれに作っていたが、この手間がめんどくさいんである。茹でた後に冷やすというのが、思いのほか手間である。だいたい一人暮らしの家に大量の氷なんかあるわけもなく、酒用の氷をパスタ冷やすのには使いたくない。水で洗って、冷蔵したトマトジュースなんかをぶっかけてお茶を濁すが、結局のところ、60点くらいにしかならない。
冷製パスタを出してくれる飲食店が大好きなのだが、そういう店の酒はだいたいワイン。ワインは悪くない。ワインは素晴らしい酒だと思うが、俺は冷製パスタに白ワインを合わせるのは、どうにもぴんと来ていないのである。冷製パスタと白ワインは言うなれば1+1=2のような話であって、どっちもうまいから、万事問題ないという体である。
念願かなって出会えた冷製パスタ。今回はアブサンを合わせてみた。正直、この組み合わせは百点ではなかった。アブサンという酒には香り以上に、癖のある味がついており。冷製パスタといささか競い合っていた事実は否めない。
しかし、挑戦できるということは素晴らしいことである。次回はジンでやってみよう、だとか、アブサンでも違う銘柄だったらいけたのではないか、とか。一周回ってこれも絶妙なのではないか、とか。考える余地がある。
酒と飯を食うというのは考えることで、自分の体調や味覚に合わせて、何を食って、何を飲むか。それをリアルタイムに鈍っていく脳みそで考える、という非常に楽しい娯楽である。
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