「異世界おじさん」のおじさんは負け犬? 成功者?

 椎名先生がこんなことを書いていて、俺は思ったんである。鬼か、この人は?

 ここに俺と椎名先生との大きな乖離が存在する。俺は異世界おじさんを成功者のスローライフと見ている。椎名先生はおじさんを負け犬の自虐コメディと見ている節がある。正解はどっちか、というのはほとんさんに聞かないとわからないが。何故そうなるのか、を考えてみる。

 察するに、椎名先生は女の子にチヤホヤされたり、社会から認められて地位を築いたり、大金持ちになって好きなものをなんでも手に入れる、ということを成功だとみなしているんだと思われる。ネット広告で「あなたも成功者になろう」みたいなギラギラの腕時計を見せつけてくるやつ、ああいう価値観だ。

 何故そう思うのかと言えば、横島忠夫がまさにそういう人間だからである。今は何者でもないバイトの兄ちゃんだが、一生懸命働いて、あがいた結果、超一流のGS能力を手に入れ、永遠の憧れだった女を妻にする。地位、名誉、女を全部手に入れるという話である。

 これは非常にわかりやすいし、それは全くその通り。ひねくれた俺でも、そうなれるのならなりたい、と思わせるサクセスストーリーである。これが成功であるとする認識、価値観を否定できる人間はまあおらんだろうと思う。金は全てを肯定する。

 一方で、じゃあ、その定義から外れた異世界おじさんは失敗であり、不幸せなのか。全然そんなわけはない、と俺は思う。そもそもおじさんは大のSEGA好きであり、SEGAのない世界で生きていくこと自体が不幸なことである。おじさんは異世界に行きたくて行ったわけではなく、不幸な事故として闖入してしまったのであり、そこに留まる理由もない。

 おじさんは異世界で努力すれば幸せを勝ち取れたのか。椎名先生の定義で言う、名誉、金、女で言うと、実際金と女は手に入れている。独力でダンジョンに潜って、世界に7つしかないと言われる秘宝を持っていたりするんである。大金持ちだ。ツンデレさんや女勇者から惚れられている節もある。

 名誉に関しては、顔面問題がある。顔が汚過ぎて、何をやっても嫌われるし、殺されかける。我々の世界で言うなら、顔が豚の人が歩いているのと同じなんであろう。いくら豚に似ている人だと言われても、怖いものは怖い。

 この問題を解決する方法が一つだけあって、魔法の力で顔面を変えてしまうことである。実際に、おじさんは何度かこの方法を使っている。だが、この魔法は本人の人格にまで影響を及ぼす。だから極力使わないのだ、と明言している。

 椎名先生の言う「異世界での成功」のうち、2つは既に満たしている。残り1つは顔面の整形で、これはおじさんが自分自身の人格を捨て去ることができれば、叶う。おそらくそこまですれば、SEGAへの執着も消し去ることができる。実にわかりやすい話で、異世界に行ってチート能力をやりたい放題に使い、自分自身を捨てることができれば、異世界での幸せを手に入れることができるんである。

 それは本当におじさんだろうか。赤の他人の人格になった結果、幸せになっても、それを幸せと呼べるんだろうか。これは哲学である。そして、そうでもしないと異世界での幸せとやらは手に入らない。

 かといって、この道を選ばずに異世界に止まれば、周囲から耐えず襲われて、殺されかけるのである。実際、助けた直後に子供に崖から突き落とされている。宿にいるだけで襲撃に遭うこともあるのだから、どうしようもない。

 逆に、現実世界へ帰還した後のおじさんは不幸だろうか。確かに、地位も名誉もないし、金もカツカツである。女に恵まれる余地もない。椎名先生の定義から言えば、34で定職にもつかず、動画で食っていくしかないおじさんは不幸なのかもしれない。

 が、俺からすると、おじさんは幸福である。まず何よりもSEGAがある。SEGAのゲームを遊べる。なんならおじさんが去っていた間のドリームキャストなどの新作も遊べるし、ソニックの新作なども出ている。異世界とは比べものにならない幸せである。

 大金持ちではないが、異世界で手に入れた魔法や武具を使って動画を撮ることができる。自由業で食っていける。定職につくことはできず、家族らしい家族も甥っ子しかいないが、異世界にいた時間は無駄ではなく、自由を謳歌できている。完璧ではないか。

 YouTuberであるおじさんの生き方は、俺からするとマンガ家にかなり近い。才能を活かした自由業であり、長年培った努力と技術でコンテンツを作って生活を成り立たせている。それでそこそこ食っているのは幸せではないのだろうか。

 だからこそ、俺にとって椎名先生がおじさんを不幸な負け犬のように思っているのが意外だった。あるいは、同じような境遇に見えるからこそ、スローライフに落ち着かず、もう一度異世界に挑戦して欲しいと思うんであろうか。

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