洋服バトル少年マンガ『ランウェイで笑って』

 『ランウェイで笑って』が面白かった、という話をしたい。

試し読み

 どこで出会ったのか、とんと忘れてしまったのだが。気がつくとkindleの購入書籍に入っていた。1巻を読んで、そのままになっていたのだが。読んでみると、面白かった。検索すると何故か2巻、3巻も買っており、読むと面白かった。気がついたら全巻大人買いして、最後まで読み切ってしまったんである。

展開が早い

 まず良かったのが、展開が早いところである。全22巻なのだが、非常にハイスピードで話が進んでいく。ど素人の高校生だった1巻から超一流のプロになる22巻まで、物語が留まっている部分がない。常に危機、また危機の連続で中だるみがない。まれに数話のお遊び回はあるものの、それがあってもなお話がスピーディに進んでいるのだから、読み応えがある。

 物語が進んでいる、というのは満足感なのである。ランニングマシンを使っていると、ずっと同じ風景ばかり眺めることになって、飽き飽きとしてくる。そこでアニメやドラマを見たり、風景の動画を眺めたりして、飽きが来ないように工夫することになる。進まない物語はランニングマシンと同じで、退屈である。ぽんぽんと進んでいると、それだけで満足感がある。1話、1巻に進展があり、物語が変わっていくマンガは、それだけで価値がある。

ちゃんと少年マンガのバトル

 俺は全く洋服というものに興味がない。興味がない、というのはおかしい話なのだが。おそらく大半のオタクの男性と同じく、洋服とコスプレの差がなく、好きだと思う服はマンガのキャラだったりするわけである。服の生地に何があるのかもわからんし、靴にどういったスタイルがあるのかも、全くわからん。

 全くわからん俺が、デザイナーとモデルのマンガを面白いと思えているのは、これがはっきり少年マンガだからである。この作品でははっきりデザイナー同士の戦い、モデル同士の争いを描いているし、作中でもはっきりと明言している。

 実際のファッション業界がどういったものか、俺は知らんが。こと戦い、バトルマンガと言われると、すんなりと頭に入ってくるのがマンガオタクである。そうか、なるほど、洋服で戦っているんだな、と思うと、興味のない洋服の話題でもポケモンのステータスを眺めるが如く、話題についていけるようになるんである。

 マガジン連載だったということもあるんだろうが。こうもはっきりバトルマンガ風情を取っていると、ファッションに詳しい人には笑われたりしそうなものだが。そこを突き抜けて、きちんと少年マンガとして描いているのが大変ありがたい。

抜け目ない人物像

 この作品で特に好きだったのが、人物描写である。この世界の人間はコネや心理を突くということに肯定的である。何が何でも、どんな手段を使っても自分のデザインをねじこんでいくし、最終的に実力で評価を得られるのであれば、どんな過程であろうとよしとしている。

 コードギアスでスザクが「間違った手段で手に入れた未来はいらない」などと言う。あれは少年マンガの主人公としては、道徳的にも100点満点の回答だとは思うが。その手段では手に入れられないものもあるのが現実だ。

 最終的に成功できていれば、それがその人の実力であるし。逆に言えば、真に実力がなければ汚い手段で成り上がっても、すぐに追い落とされる。そういう過酷で冷酷な現実が根底にあって、普通の少年マンガでは絶対取り扱わないテーマだけに非常に面白いのである。

安心感のある無双もの

 身も蓋もない話をすると、主人公もヒロインも生まれついての才能を努力で開花させ、大成功をして掴むわけなんだけども。結局、そこには圧倒的な才能があるという前提のシンデレラ・ストーリーなんである。何故ならば、同じように努力し、時間とお金をかけてきた人間たちが何人も出てきて、追い抜かれ、消え去っていくからである。

 そうした観点で読むと、無類の才能を秘めているけれども貧困ぼろぼろの主人公が最速で大成功に至るまでのRTA、リアルタイムアタックをしている無双作品として読むこともでき、安心感がある。

 なろう系に代表されるような無双作品が何故ウケるのかというと、安心感があるからだ。日常系マンガを読むのと同じくらい、大きな事故は起こらず、次に何があるのかわかりきっていて、安心して読むことができる。

 例えば、毎回全く同じ話を繰り返すのに、落語は面白い。この人はどんな語り口で見せてくれるんだろう、とか、次はこう来るんだよな、と心待ちにしながらお話を聞いて、それが何編でも楽しめる。無双作品もこれと同じで、おおよその展開はわかっている上で、安心しながらその人の取り組みを見守ることができる。そこが無双作品のよさだ。

 このマンガも序盤からして主人公が才能にあふれた少年であることは明示されているし、どう考えても成功することが目に見えている。だからこそ、何をどうするのかハラハラしながらも、絶対に不幸なことにはならないだろうとどこかで安心しながら読むこともできる。

 22巻というのは、まあまあの長さであり、いまさら全巻買い揃えるのには抵抗のある人もいるだろう。が、きちんと最後まで完結しており、終始安定して面白い。お試しに1冊だけでも読んでみるのはいかがだろうか。

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