AIイラスト生成について書きたいと思うんである。いっちょかみしてPVを上げたいからである。
AIイラストはイラストレーターの仕事を増やす
長い目で見て、イラストレーターの仕事は増えると思うんである。何故か。イラストレーターに求められるのはクライアントの抽象的な指示を話し合いの場で理解すること。別媒体でも映え、複数キャラの見分けもできるキャラデザを作ること。クライアントにわかるレベルのラフを上げて、成果物のイメージを共有すること。イラストを描くこと以上に、クライアントと共に作品を作り上げることが仕事だからである。
また、イラストレーターには他者にはない個性も求められる。これは身も蓋もない話で、本屋、ゲーム屋、今で言えばサムネイルで他社の製品と見比べられるのがイラストの仕事である。他のイラストよりもきれいで美しくあるより、ぱっと目を惹く。万人にまあまあ好かれるよりも、半数の一番になる方が価値が高い。
現状のイラスト生成AIにはクライアントの意図を指示からくみ取る能力はない。複数のキャラの設定を理解して、差別化を図る能力もない。それをするにはAIをよく理解し、チューニングする技術が必要で、そこまで行けば立派な専門職で、「AI絵師」を名乗っても許されると俺は思う。おそらく、イラストレーターの技術を身に着けるのと同じだけの学習が必要だ。
また、NovelAIのような汎用的サービスでは個性のあるイラストは生成されない。5000万枚くらいのイラストを学習しているそうだが、そこから人間がまだ理解できていない法則を学んで、出力するのがAIの仕様である。限りない数のイラストから再現性を見出すのが仕事だから、「他にはない尖ったイラスト」は仕様の範囲外なのである。
これだけ聞くと、AIはイラストレーターの仕事を増やしも減らしもしない、と思うかもしれない。俺が思うに、全く絵を描く能力がない一般人がイラストを生成できるようになると、万人の制作物にちょっとしたイラストを使いやすくなる。役所もコンビニも仕事のプレゼンでもいらすとやが出てくる現象が、ここでも再現されると思うんである。
それまでイラストとは無縁の文字だけ使っていた領域で、高精度のAIイラストが採用されるようになる。素人が作ったアプリやゲームのモックに品質の高いAIイラストが姿を見せる。それまではパーツが揃わずに完成できなかった、収益化できなかったプロダクトが完成するようになる。それらのいくつかは懐に余裕が出てきたタイミングで、AIイラストではなく、イラストレーターに仕事を発注するようになるだろう。
だから、世の中にイラストを採用したプロダクトが増えていって、その中のいくつかが完成し、さらにごく一部は成功し、収益化していく未来においては、ちゃんとしたイラストレーターの仕事は今よりも増えていると考えるわけである。クライアントの意図を理解して、プロダクトに付加価値を与えられるイラストレーターの仕事である。
カスタマイズモデルがイラストAIビジネスの主流になる
絵師界隈ではAIが出力する小物や効果、背景などを自身の絵に使えるのではないか、という意見も出ている。個人的には、これはかなり限定的な効果にとどまるのではないかと思う。上述したようにAIが生成するイラストはパターンが決まっており、いくつも見ているうちに目が慣れていく。目新しさというものが失われていく。
例えば、背景を白地にするのが嫌だから、ちょっとした色で囲ったり、空や海などでお茶を濁す場合がある。このバリエーションとしてAIの生成した背景を入れておく、というくらいの使い方はできるだろう。あるいは、適当な文字列で生成を繰り返して、アイディアを抽出するといった用途にも使えるかもしれない。それ以上の本質的な変化、紙がデジタルになったくらいの革新的な要素はAIにはないだろうと思う。
ただ、これは「同じものを二枚書かない」イラストに限った話であり、マンガだと話は変わる。特に学習素材がたくさんあって、同じような絵を何回も書く大御所の連載作品だと、AIが工数を短縮する可能性は大いにあるのではないかと思うんである。
自身のイラストを追加学習させることで、AIは似たような傾向のイラストを何枚も生成することができる。芝居をさせる必要のあるキャラクターなんかは描かせるわけにはいかないが、背景や大量のモブが必要なコマなんかはAIの得意分野だろう。
一般人でAIを触るのはゲームやアプリを作る開発者くらいで、一般人が遊びでイラスト生成するブームはすぐ去るんじゃないかと思う。おそらくイラストAIの主流は特定の作家、特定の用途に限定したカスタムモデルであり、大本のサーバを提供する企業と環境構築とサポートを請け負うコンサルがビジネスの主体になるんではないか。
たぶん未来のあるあるは「数年ぶりにAIに自分のイラストを再学習させたら、出力結果ががらっと変わっていた」「知らない間に自分の絵柄が大きく変わっていることに気づかされた」「前みたいな結果が出せなくなって、モデルをバックアップに戻そうか迷ってる」みたいなネタだろう。
最低限のハードルがAIイラストになる世界
イラストレーターの仕事は増える。イラストAI自体も活用の方法がある。良いことづくめに見えるが、これから絵を描こうという若者にはハードモードだと俺は思う。昔々は「クラスで一番」くらいの画力でも自己肯定感を高めることができた。
SNS時代になって世界中の人間と比較できてしまう現代、自己肯定感を高めることは難しくなっていた。そこにきて、さらに「何の努力もしていない一般人がボタン一発で神絵師レベルのイラストを生成できる」時代がやってきてしまったんである。
AIイラストは仕事には耐えないが、好きなアニメのファンアートを載せるくらいの用途には十分使える。ごく純粋にアニメのことを好きなオタクが、NovelAIなんかを使って、『スパイファミリー』や『ヒロアカ』なんかのイラストをtwitterに載せて、大量のいいねをもらう。
一方で、がんばって描いた自作のイラストは誰からも顧みられることなく、リツイートもされない。これまでは「自分より才能がある絵師がいた」「自分よりもっと努力した絵師がいる」という理屈によって耐えることができても、今後は「何の努力もしていない素人がボタン一発で出した絵より下」という現実を突き付けられるんである。これは酷な話だろう。
だからこそ、俺は自分で絵を描く人間への尊敬の念を一層持つべきだと思うんである。AIイラストはど素人の我々に気軽に扱えるイラストを供給してくれる。その技術はありがたい話だが。やはり、1から絵を生み出す技術には敬意を払うべきだと思うんである。そうでなければ、新たに絵を描こうなんて物好きはどんどん減ってしまうし、文化はぐんぐん先細りしてしまう。
そして、個人的にはAIで生成したイラストはtwitterやPixivに放流すべきではないとも思うんである。あるいは、きちんとAIイラストであることを明記すべきだろう。それはモラルやマナーといった問題以前に、きちんとそれが何かを分類しておかないと、学習対象に含まれてしまうからである。
素人が生成したイラストをPixivに上げると、AIが次回学習する際にAI生成イラストも学習してしまう。手書きよりもAIイラストの方が楽だから、AIイラストの比率が多くなるだろう。自分で描いたものを自分で学習するサイクルが進んでいくと、多様性のある学習はできなくなる。現時点でのイラストの傾向や流行りを再強化するような学習が進むため、イラストAIの学習モデルの価値が下がっていく。
現状ではキーワードを変えたり、何回か再抽出しなおせば、傾向の異なるイラストも生成できるが。再強化されていくと出力がどんどん固定化されていくだろう。キャラ名を変えても、条件を変えても、なんとなく同じような絵ばかり出る。そういう状態になってしまう。
だから、自分が生成した結果を学習させないように、プールに戻さないような対策が必要になる。その一環が「学習対象となっているSNSにアップしない」ことや「フィルタリングしやすいように明記する」ということなんである。
〆
まとめると、イラストAIによって一般人が気軽にイラストを使うようになり、ビジネス能力の高いイラストレーターの仕事はもっと増える。汎用的イラストAIの流行は一過性のもので、いずれはカスタムモデルが主流になる。ただ、一般人が生成したイラストをSNSに気軽に放流していれば、イラストAIの精度は下がっていく。新しい視点、新しい流行を生み出していく、生身の絵師を大事にしていこう。という話である。
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