男のあるあるが詰め込まれた傑作『自伝板垣恵介自衛隊秘録~我が青春の習志野第一空挺団~』

 あの板垣恵介、『バキ』作者の自伝マンガが出ていたので、買ってみた。これが、もう、めちゃくちゃ面白かった。

 下品なマンガである。おしっこを我慢した話だとか、自慰を我慢した話だとか、そういう話がいっぱい出てくる。出てくることが、もう、めちゃくちゃリアルなんである。

 これは俺が男だから、というのもあるんだろう。俺は下ネタはあまり好きな方ではない。飲み会でも普段の雑談でも、下ネタを話すことはない。知り合いはみな同じタイプが多いから、聞くということもない。

 ないが、根底に言えば、「おしっこを我慢する」なんていうのは人生で百回でも千回でも体験する話ではある。この話は作者の自衛隊時代をネタにはしているし、その極限の状況とは比べものにならないが。そうじゃなくても、我々の人生にはいくらでもふってわく事態である。

 例えば、俺は京成という私鉄に乗って出勤するが、途中で腹が痛くなったりすることはある。しょっちゅうある。途中で降りてもいいが、トイレがどこだかわからない。わからないトイレを探すより目的地である上野まで待った方がいいんじゃないか。

 便意にも波があって、ちょっと待って、駅に着くと収まっている。これなら上野まで我慢できるんじゃないか、と思って過ごすと、すぐに腹痛がぶり返す。

 こんなのは俺だけではなく、みんな、経験することだろう。これをあの板垣恵介があのバキのメソッドで書くのだから、面白くないわけがない。共感できる題材になればなるほど、面白い。

 『チェーンソーマン』が大ヒットしているが。あれがウケた理由の半分は、主人公のデンジがわかりやすい男だからだ、と俺は思うんである。うまい飯を食って、あったかい布団で寝て、かわいい女と寝たい。これはストレートでわかりやすい。

 マンガの主人公というのは変遷がある。一時期は『GS美神』の横島や『ダイの大冒険』のポップのような、わかりやすい「モテたい男」がよく出てきた。だんだんと社会がきれいになってきて、欲望をまっすぐ出す男がいなくなってきた。『ワンピース』のルフィや『ナルト』のような、子どもっぽい男。あまり性欲を感じさせない男が出てくるようになった。

 それが悪かったわけではないが、そこにストレートな共感を抱けるか、というと、難しい。嫌いではないが、自分ではない。きれいすぎて、他人なんだなという感じがどうしてもする。クラスの友達を眺めるような感じで、それらの主人公を眺めている感じがあった。

 デンジは違う。わかりやすい。マキマさんはミステリアスだが、やはり顔がいい。魅力がある。つきあいたいと思う。その欲求にストレートに反応する男は馬鹿かもしれないが、そうだよな、と思う。馬鹿なんだろうけど、俺でもやるかもしれない。ダイエット中の油ぎとぎとラーメンみたいなもんで、そんなのは馬鹿だと言われても、食いたい。

 この板垣恵介の自伝マンガもそうである。わかりやすい。俺だってそうだ、と思う。オナ禁をする回なんか実にわかりやすい。人生に一回はやってみる。男はそうだろう。その結果として、どこかで馬鹿馬鹿しくなって、どこかが羽目を外す。それも馬鹿みたいなことをする。わかる。わかりすぎる。

 虚勢はあるかもしれないし、過剰な演出もあるのだろうが。わかるわかる、と思わせるパワーがある。馬鹿なんだけど、これを馬鹿にできない力がある。これは自分のことだ、と読者を、男の読者を共感させるそのものが描かれている。面白かった。

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